古典的な歴史本として多くの人に読まれてきました。
ローマ帝国衰亡史 全10巻
ギボン著、中野好夫・他訳、ちくま学芸文庫
初版:1995〜1996年
原書出版年:1776年〜1788年
調子のよいローマ勃興期ではなく、ローマが滅亡する過程を叙述・考察した大著です。
2世紀の五賢帝の末期から始まり、15世紀の東ローマ帝国の滅亡まで、関連国家・民族・宗教も絡めながら、ときには冷静に、ときには感情を込めて語っています。
ただの歴史物語ではなく、歴史から教訓を導こうとする啓蒙時代の作品なので、人物評や政策評にも重点が置かれており、チャーチルなど多くの政治家や軍人の愛読書となりました。
全10巻もあり、現時点で私はまだ4巻までしか読んでいないので、4巻までについて述べます。
1巻は2世紀から3世紀半ばくらいまでを扱っています。
まず五賢帝時代の栄光のローマ帝国について概観し、帝国の版図や軍制を復習します。自由の精神を維持しながら名君に統治され、平和によって繁栄し、寛容の精神によって民族協和が実現した帝国ですが、コンモドゥスやカラカラなどの暴君の恐怖政治で台無しになり、ローマは次第に旧来の長所・美徳を失っていきます。各地の軍に担がれた凶暴な軍人皇帝たちが1、2年で入れ替わる乱世となり、ウァレリアヌス帝はペルシャに敗れ捕虜になるは、シリア(パルミュラ)やガリアは半独立状態になるは、各地で反乱続出し、帝国は崩壊目前になります。カラカラ以降ガリエヌスまでのほとんどの軍人皇帝はギボンに酷評されており、読んでいてゲンナリしてきます。
後半は、帝国を外から脅かすペルシャ帝国やゲルマン民族について詳しく述べられます。とくにこの頃はゴート人が暴れており、デキウス帝を戦死させたり、各地を放浪してウクライナに居つき、船で黒海沿岸を荒らしまわってギリシャにまで略奪に行ったエピソードなども書かれています。
2巻は3世紀半ばから4世紀初めくらいを扱っています。
収拾のつかない状態から始まりますが、クラウディウス二世、アウレリアヌスなど優れた軍人皇帝が続き、帝国は再統一されますが、どの皇帝も短命で長期政権になりません。やがてディオクレティアヌスが帝国を再建し、広大な領土を守るために帝国を四分割し、とりあえず昔の栄光を取り戻します。その一方でこの皇帝は東方専制国家の制度・風習が取り入れ、ローマ市を軽視してニコメディアに宮廷を置き、帝国はますます変貌していきます。自発的に引退したせいか、辛口のギボンもディオクレティアヌスには好意的です。ディオクレティアヌスの後はまた後継者争いになり、その中からコンスタンティヌスが勝ち残ります。
後半は、キリスト教の考察に当てられています。奇跡(イエスが処刑されたとき天が暗くなったとか)について同時代の記録が見当たらないとか、ネロ以降それほど過酷な弾圧はなかったとか、キリスト教徒の反社会性(異教の風習には断固交わらないなど)や教徒同士の内輪揉めなども迫害の原因になった、と冷静に分析しています。
3巻は4世紀初めから半ばくらいまでを扱っています。
コンスタンティヌス大帝の体制や新首都コンスタンティノポリスの解説から始まります。ギボンはコンスタンティヌスについて、長男の処刑や、東方風の支配制度を取り入れて国民に重荷を課す暴君ぶりを手厳しく批判しています。その死後は、コンスタンティウス二世が後継者争いに勝利します。この皇帝は内戦に勝ち残って長期政権を維持したけれど、キリスト教の異端論争にのめり込み、ササン朝ペルシャには終始劣勢で、帝国の不安材料は多々あります。中盤ではキリスト教についての考察になり、コンスタンティヌスの改宗やそれにまつわる伝説を冷静に分析しています。けっきょく、よく組織化され、君主に無抵抗で、道徳的な行動を薦めるキリスト教は、最初は権力者に都合のよい宗教だったということになります。そのキリスト教も権力を握ると、教義をめぐって異端論争が頻発し、アリウス派をめぐる長い不毛な内部闘争が展開されます。アタナシウスのような気骨ある司教もいますが、この辺はだいぶん退屈です。
後半は、ゲルマン人を討伐して名を挙げたユリアヌスが反乱の末に皇帝になります。彼は古来の異教を復活させ、巧妙にキリスト教の既得利権をはく奪していきます。ギボンは古典と哲学を愛好する若きユリアヌスの性格を称賛しますが、偏った異教信仰にはやはり手厳しいです。
4巻は4世紀後半から5世紀初頭までを扱っています。
ユリアヌスは意気揚々とペルシャ遠征しますが、あっけなく敗死してしまいます。後継は結局、武骨な軍人ウァレンティニアヌスになり、厳格な政治で帝国を立て直します。キリスト教も盛り返します。この頃になると、いよいよフン族が出てきます。ギボンはフン族=匈奴説に従っており、18世紀のイギリスの東洋史の認知度には驚かされます。フン族に圧迫された西ゴート人は、東帝国領内に入って東帝ウァレンスを敗死させ、帝国はまたもや危機に陥ります。
この危機に、有能な将軍テオドシウスが東帝に選ばれ、策略と軍略を用いながらゴート人を服属させることに成功します。西帝国では内乱が起こり、結局テオドシウスは西帝国に介入して、帝国を統一します。律義に先帝の子供の帝位を守ろうとしたせいか、ギボンはテオドシウスをかなり高評価しています。テオドシウスはキリスト教を国教と定め、ついに異教の儀式は禁止になります。しかし聖者崇拝に多神教の要素が見られることをギボンは見逃しません。
テオドシウスの死後は凡庸な兄弟が東西の皇帝になり、取り巻きに操られる中、東西帝国は次第に疎遠になっていきます。そして西ゴートのアラリックは帝国に形式上服属しながら巧みに東西帝国を荒らしまわります。西帝国はスティリコが辛うじてイタリアを守り抜きますが、アラリックとの関係を疑われて謀殺されてしまいます。
4巻までは訳者がほぼ中野好夫だけで、漢語が多く、昔の講談か軍記物みたいな語り調の雰囲気があります。
この後の巻は読むかどうかわかりませんが、読んだらまた書きます。